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2005年01月30日

mixiからのネタ「1光秒の長さの棒を引っ張るとどうなるか?」

mixi.jpのコミュニティ「相対性理論」での話、物理を一通り勉強した人なら当たり前のことだけど、そうでない人にはやっぱり不思議みたいで、ちょっとした話題になりました。

要はこういう話、

「1光秒の長さの棒があったとする。この棒は非常に軽く、かつ非常に硬いとする。ここで、棒の一端を引っ張ると、もう一端もすぐに(瞬間的に)動くのではないか?これは、情報が光速を超えてるのでは?相対性理論と矛盾するよね?」

という疑問でした。
mixiの該当コミュニティをご覧になっていない方や、mixiに入会されていない方で、同様に疑問に思っている方もいらっしゃると思うので、私がコミュニティで結論付けた内容を加筆修正してここで書いてみます。

なお、一部正確(厳密)ではない記述がありますが、話を簡単にするため意図的なものであることをあらかじめお断りしておきます。

まず前提条件として、挙げられた「非常に軽い」と「非常に硬い」を考える。
「非常に軽い」という仮定は特に問題はない。
しかし「非常に硬い」とする仮定は、どの程度硬いのかという問題がある。第一の条件である「非常に軽い」という仮定を考えると、この棒は通常の物質で出来ていると考えることが出来る。すなわち、通常私たちが義務教育で学ぶ「原子周期律表」ででてくる物質と考えることが出来る。

さて、通常の物質がいくら「非常に硬い」とはいっても、全く伸び縮みしないのかというとそういうわけではない。力のかけ方しだいではあるが、どんな硬い物質でも伸び縮みする。ただし、今後この伸び縮みはゴムのように元に戻ると仮定する。この固体の伸び縮みについて次に説明する。

固体というのは原子が隙間なく詰まっていると思われるかもしれないが、実はそうではない。原子レベルまで拡大してみると、実はかなりスカスカなのだ。もちろん超高真空に比べるとはるかに多くの原子で込み合ってはいるが、かなり隙間があるのだ。電気的な力(正確には量子力学も関係するがここではそれには触れない)によって、ある一定の距離で秩序だって、整然と並んでいる。これが固体なのだ。

つまり、固体といえどもある程度伸び縮みする余地があるのだ。ただし、ある一定の力以上で引っ張ったり、押したりすると、つりあっていた力の関係を超えることになり、棒がちぎれたりつぶれたりする。

と、いうことで、通常の物質なら、程度の差こそあれ、伸び縮みするのだ。ゆえに仮定2は成り立たない。では、仮定2を除外して考えてみよう。

ということで、棒の一方の端を引っ張ると瞬間に他方の端も動くのか?という疑問をといていこう。

これは、先に説明した「固体というのは実はスカスカなのだ。」という事実も関係してくる。が、その前に、力というのがどのようにして、伝わるのかを考えてみよう。これは、全てを義務教育レベルでは習うわけではないので、詳しく説明することにする。

まず、気体の場合を考えてみよう、そう、私たちが呼吸している空気を例に挙げよう。私たちは他の人と声で会話することが出来る。声というのは、音の波、すなわち「音波」という形で、空気を伝播していく事はご存知だろう。そして、音速はおおよそ秒速300メートルということもご存知だろう。この音というのはどういった仕組みで伝わるのだろうか。

われわれが「声」を発生するとき、のどにある「声門」を空気が流れることによって、周波数の異なった音を出している。声門が空気を揺らすことによって、音を出しているのだ。「空気を揺らす」すなわち空気に含まれる分子に一定の力を加えることによって、空気分子の集団に密度の濃い部分と薄い部分の流れを作り出す。これが「音波」だ。「音波」は空気分子の運動だから、声門によって、力を与えられた分子は速度をかえる(判りやすいように今回は速度が増すと考えよう)。速度の増した空気分子は隣の分子にぶつかって、運動量を交換する(運動量保存の法則)。この運動量の交換は、分子が直接もう一方の分子とぶつかって、交換されていると理解しているかもしれないが、そうではない。現実には接触することはない。ある一定距離まで近づくと電気的な力によって、反発するのだ。

分子は電気的に中性なのにどうして反発するのかというと、分子は(例として水分子を挙げよう)原子レベルで見ると多くは分極している(電気的な偏りがある)のだ。また、原子をもう少し詳細に見ると、原子核を中心に電子が原子核の周囲を回っている(しかし惑星のように回っているわけではない)。ある原子同士が接近すると、まず、原子核の外周にある電子がお互い反発しそれぞれの原子核の反対側に集まるようになる(原子レベルで分極する)。さらに接近すると今度は原子核(これはプラスの電荷をもっている)が電気的に反発する(この時点で電子たちの電気的な影響はほとんど無視できるものになっている)。よって、電気的な力で、反発するのだ。

ここからは素粒子物理学の範疇に入るため、さらに詳しく説明する。

「電気的な力で反発する。」と書いたが、素粒子物理学的には、この反発はある「力を媒介する」粒子の交換でおこなわれる。原子間の力の交換は、力を媒介する粒子が仲介して運動量やエネルギーを交換しているのだ。つまり、直接ぶつかって運動量を交換しているわけではないということだ。この力を媒介する粒子は力の種類ごとに存在し、電気的な力は「光子」つまりわれわれが日常見ている光(正確には電磁波)と同じものだ。光というのは「波」だと思っている方も居られるだろうが「粒子」としての性格も持ち合わせている。光を粒子として扱う場合はこれを「光子」と呼んでいる。光子は電気的には中性で質量もない。ゆえに光速で運動することが出来る。しかし逆に「光速を超えることもない」ということは理解できるだろう。

そう考えると、原子同士の衝突による運動量の交換は「一瞬にして」行われるのではなく、光速度に制限されている(つまりある一定の時間がかかる)ことがわかるだろう。

さて、話を長い棒に戻そう。

固体というのは実はスカスカであるという事は先に述べた。そして、隣接する原子同士は電気的な力で、ある一定感覚に整然と並んでいると述べた。

棒の一端を引っ張るということは、整然と並んでいる原子を引っ張るということだ。この変化は、光子による運動量の交換で隣接する原子へと伝わっていく。光子は光速を超えることは出来ないから、引っ張った力は、光速を超えることなく隣接原子へと伝播していく。この過程は先に述べた「音波」と基本的に同じものだ。そのため、固体(物性)物理の世界では、力の伝播を「音波」と呼んでいるくらいだ。

結局、棒の一端を引っ張ってももう一端は早くても1秒後にしか動かないということが判った。よって、相対性理論には反しない。このとき、棒が一時的に延びているということは言うまでもない。

では、光速は超えることはないとしても、光速で伝わるのではないか?ということを考えてみよう。

複数の原子が運動量を交換することを考えてみよう。ある原子が押されて、隣の原子に近づいたとする。そのとき光子による運動量の交換が行われるが、運動量を受け取った原子がすぐにまたさらに隣の原子へ光子を放出するわけではない。一定期間運動量が増加したままでいるのだ(励起状態)。ある一定時間が経過して原子がほんの少しだけさらに隣の原子に近づいてから、再び光子を放出して、運動量の交換を行う。つまり、このような運動量の伝播は通常光速よりもはるかに遅くなる。ただし、固体原子の種類や密度によって、伝播速度(すなわち「音速」)は異なっている。

現実、鉄の塊内での音速は約秒速86kmということだ。もうここでは「音速」と書いているが、これは、力の伝播速度と等価であることは既に述べたとおりだ。

よって、1光秒の長さの棒の一端を引っ張ると、瞬間的にもう一端も動くということはない。少なくとも1秒以上かかってやっと動き出すのだ。仮にその棒が鉄の塊だとすると10時間以上たってからやっともう一端が動くということだ。

以上解説終わり。

理解していただけただろうか。
私も10年以上物理の世界から離れているので、間違っている部分もあるかもしれない。そこは、コメントなりTBしていただけると嬉しい。

Posted by masamic at 01:01 [科学・技術] | 固定リンク

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コメント

1光秒は大体Åのオーダーなので、棒が原子でできていることを仮定するのは無理かと思います。話を簡単にして、2粒子系を考え、お互いが何らかの相互作用で結びついているときに、片方の粒子を外力で動かしてから何秒後に相手の粒子にその影響が伝わるかを考えたほうが、より自然かと思います。
あと、フォノンは力の伝搬ではなくてあくまでも縦波(疎密波)です。
一応現役物理の学生より。

投稿者: youphen (2005年01月30日 09:01)

youphenさん。コメントありがとうございます。

さて、「1光秒」ですが、私の場合は「1光年」と同じ考え方での表現なので、「1光秒」=約30万キロメートルになります。ゆえに、Åオーダーではないのです。
#もしかしたら専門分野によって意味が違う?

次に2粒子系ですが、これはよく判ります。一番簡単な例ですからね。ですが、ここでは、2粒子にまでにまで単純化すると、なんとなく「固体」の観念との結びつきが弱くなってしまうと考えたたからです。

最後に音波「フォノン」は縦波(粗密波)の概念であって、特定の力(運動量の交換でもエネルギーの交換でも同様)を指すものではないことはわかりますが、何かしらの力の伝播ではないということは「本当に」そうですか?固体(物性)物理の世界では、粗密波の伝播速度を固体の弾性率と密度から導き出しますが、モデルとしては、

 ○~~○~~○~~○~~○

とするバネで結び付けられた物質を考えますよね。

一方を押すと、

0. ○~~○~~○~~○~~○
1.  ○~○~~○~~○~~○
2. ○~~~○~○~~○~~○
3. ○~~○~~~○~○~~○
4. ○~~○~~○~~~○~○
5. ○~~○~~○~~○~~~○
6. ○~~○~~○~~○~~○

と縦波が伝播していきます。バネは力を媒介する媒体と考えられますから、力のやり取りを隣接原子と行っているという表現がもっとも簡単な説明だとおもうのですが。

最初にも断っていますが正確さより判りやすさを優先しています。

音波(フォノン)を例に挙げたのが良くなかったかもしれませんが、普通、音波(縦波:粗密波)も力(運動量もしくはエネルギー)の伝播に他ならないと考えますが、もしよろしければ、現役の学生(および研究者)である方にそのあたりを詳しく説明いただけると助かります。例)概念(モデル)と、現実との違いなど。

10年もこの世界から離れているといろいろと忘れていることも多く、教えていただけると勉強になります。

最後に訂正です。鉄での音速は約秒速6キロメートルの誤りです。訂正いたします。

投稿者: masamic (2005年01月30日 16:25)

はじめまして。
突然おじゃまして申し訳ありません。
実は、(ご存知かもしれませんが)
http://mira.bio.fpu.ac.jp/tadas/cgi-bin/blxm/
(の、2月8日の記事:相対性理論・同時性のパラドックス)
を自分なりに理解しようとつとめており、
「そもそも、物体が動くとはどういうことか?」という
疑問にぶつかりました。で、なぜか、いや、ほんとうに
なぜか、スカパーでみた(題名はわすれたのですが)
ファインマン先生の自伝を映画化したもの)映画の
冒頭シーンを思い出し、「ファインマン 父 動く」で
ググったら、このmasamicさまのBlogに出会いました。(トップ・ヒットです:-)
大変参考になりました。ありがとうございました。

投稿者: Kimball (2005年02月22日 21:48)

Kimballさん、はじめまして。

参考になったということで大変うれしく思います。もっとも、厳密性は低いので、考え方という意味で理解していただけるとさらにうれしいです。

ちなみにお名前の「Kimball」って、ネタはレンズマンですか?ほかの可能性もありますが。

投稿者: masamic (2005年02月23日 09:57)

お返事頂きありがとうございました!!

おお!、最初からわかって頂いたのは、初めてです。:-)
はは、米国のピアノ・メーカの名前としてのほうが
有名のようで。(でも、たしか、もう廃業?):-)

(唐突な私事で恐縮ですが:-)
ヴォイジャー・DVD BOXのSeven of Nine
人形、当たりませんでした。ざんねーん!!:-)

今後もよろしくおねがいします。

投稿者: Kimball (2005年02月23日 20:26)

Kimballさん。こんにちは。

名前の由来はあたりでしたか。(^^)V

VOYとくるとやっぱSeven of Nineですか。
そうだよなぁ。
いやドクターだっていう人もいるようですが。(^^;

こちらこそよろしくお願いいたします。

投稿者: masamic (2005年02月23日 20:51)

(つい、だまってはおれず:-)
いやいや、VOYといえば、やっぱり第一キャラクターは
「ドクター」だと拙者もおもいます!!:-)
でも、VOYのキャラクターはみーーーんな良いです
よね!! セスカまでも。。:-)

はあああ、しかあし、VOYの続編はできそうに
ないし*、今後のシリーズはどうなるんでしょうねえ。

*役者さんの年齢とか、VOYの完成度等により:-)

エンタープライズは「時間冷戦」が失敗だったのではと
個人的におもいます。

ではでは。

投稿者: Kimball (2005年02月24日 22:50)

Kimballさん、こんにちは。

VOYのノリはTOSに近かったからですね。結構人気があったのだと思います。

ENTの主目的は新規層の開拓でしたから、時間冷戦はちょっと難しかったかも。その可能性は否定できません。

投稿者: masamic (2005年02月25日 13:16)

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